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といううわさに魅かれて行ってみた。
なるほど全国からいろいろな病気の方が、下宿やらマンションを借りてきていた。みんな一連の望みを指圧にかけている人たちだなと感じた。
山手町から生麦まで市電は一本道だが、それでも一日仕事であった。指圧を始めると光二は、「耳の裏側あたりが痛い」という。悪いところは痛いというので、「それでは効き目があるのかな」と期待をかけてせっせと通った。
主人の中学校の後輩に耳鼻科の先生がいることがわかり、手紙を出したところ早速、来院するようにとのことで喜び勇んで行ってみた。大学病院は長い列ができて診察を待っている。突然、「吉野さん」と呼ばれ、まだ順番でないのに診察室に入り院長先生が自ら診断して頂き、あのときは院長先生が神様のように感じた。
後輩はまだ若かったのでただ傍らで見ているだけだったが、何かと私たちの力になってくれていた。そして力づけてくれた。
診察の結果は、「これは聴神経がストマイの注射の副作用で麻痺しており、日本は勿論、外国でも現在の医学では如何とも仕様がない難事の病である。もう諦めるより仕方ない。指圧をやっているようだが指圧はほんの気休めでしかない。それより、ろう学校にやって早く言葉を習わせなさい」と忠告を受けた。
現在はろう教育が発達しており、幼児よりろう教育ができるが、昭和二十九年ごろはどこにそういう施設があるものやら皆目、見当もつかない状態であった。

 

 

 

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